「就職難!!ゾンビ取りガール」はパクられたのか?

テレ東の新ドラマは「ゾンビ取りガール」のパクリ?

発端はこちら。

「福満しげゆき」先生の漫画「ゾンビ取りガール」が無断でドラマ化された可能性について - Togetterまとめ


10月スタート予定のテレ東ドラマ『玉川区役所 OF THE DEAD』の設定が、福満しげゆきの『就職難!!ゾンビ取りガール』に酷似しているというのだ。以下はそのあらすじ。

ドラマはゾンビの存在が日常化した世界を舞台に繰り広げられるちょっとゆるいヒューマンコメディー。ゾンビ対策と捕獲を担当する玉川区役所特別福祉課に勤める主人公・赤羽晋助(林さん)は25年間、彼女もおらずパッとしない毎日を送っていた。しかし、ある日アイドル並みのルックスだが“超武闘派”の美少女が新人として配属されてきて……というストーリー。

林遣都:公務員のゾンビハンターに 「ドラマ24」で10月から - MANTANWEB(まんたんウェブ) より


…確かに主人公が公務員という事以外ほとんどが被っている。話題になるのも分かる。

 

一つ一つの設定は、割とよくある

ただこれ、一つ一つの要素を見ていくと、ゾンビものでは結構よくあるものなのだ。

その①ゾンビを倒すのではなく捕獲する
ヘッドショットでハイさよならではなく、捕獲して共存するというアイディア。
これはロメロが『サバイバルオブザデッド』で描いている。
島の中で暮らす一族が「ゾンビを殺すべきでない」という考えの持ち主で、牧場でゾンビを繋いで飼っている。
コミックス『ウォーキング・デッド』及びそれをドラマ化したシーズン2でも、ゾンビを殺さず牧場の納屋に閉じ込めておくというシチュエーションがある。
多分コミックスが「サバイバル」より少し先。内容は別物。どちらも共存は失敗している。
捕獲後を描いたものとして、『ショーン』のラストや『ゾンビ―ノ』もある。他にも多分探せばあるだろう。

ちなみにゾンビ取りガールの元となった短編『日本のアルバイト』の初出は2003年。あの『ウォーキング・デッド』よりも、ロメロよりも先である。
ロメロが福満しげゆきを参考にした可能性も存在す…しないか。

その②主人公が非モテ
ゾンビものが好きな人にはもはや説明不用かと思われるが、「ゾンビ」と「非モテ」は非常に相性が良い。
映画だと『ショーン』『ゾンビランド』『チキンオブ~』等、コメディ系映画に冴えない主人公がよく配置される。漫画だと『アイアムアヒーロー』『女ンビ』『Z』(の一部)『ライフイズデッド』あたり。あれも非モテこれも非モテ
ゾンビものの主人公=非モテはもはやスタンダードと言っていいだろう。

その③ルックスが良く超武闘派のヒロイン
プラネット・テラー 』や『バイオハザード』など。自分で挙げておきながらイマイチピンとこない例である。
上の例より、『キックアス』や『トランスフォーマー』のような、非モテ主人公×アッパー系ヒロインという近年の類型の一つとして捉えた方が良いかもしれない。


パクりパクられゾンビワールド

しかし一つ一つの設定はよくあるとはいえ、ここまで重なるとちょっと厳しいのでは?と思い、ブコメにもそのように書いた。

id:gomahaze ゾンビを殺す(?)のではなく捕まえて共存するみたいなアイディアは他にもちょいちょいある。主人公=非モテは現在のゾンビ作品のスタンダード。でもなーちょっとこれは厳しいかなぁ。

アイディアが偶然被った可能性はなくはない。だけど「ゾンビもの」を制作するにおいて、企画段階で誰か突っ込まなかったんだろうかとも思った。

 

しかし後にこちらのコメントを見て、自分の安易なコメントを反省した。

id:zg4649 これがアウトなら、福満しげゆきがどうこうの前に、世のゾンビものはすべからくジョージAロメロの設定をパクっていることになりますよ。

http://b.hatena.ne.jp/entry/217112241/comment/gomahaze

 

そう、ほとんどのゾンビものはロメロの設定を引用しているのだ。そしてロメロ以後も、革新的なアイディアは他のゾンビ作品に伝播してきた。
ゾンビが全力疾走すれば他も走り出す。メタ的なコメディゾンビ映画が登場すれば、他も追随する。
そうしてゾンビものはここまで来た。

id:crapman ゾンビ女子高生に恋する漫画があったり、ウォームボーディーズもそうだし、ゾンビーノの緩い世界とか、アイアムア〜の半ゾンビ女子高生だとか、ゾンビはある程度被るしパクられてる。いいか悪いか別として

http://b.hatena.ne.jp/entry/217112241/comment/crapman

こちらもその通りだと思う。

なんというかゾンビものはネタ被り上等みたいな所がある。 根本設定をロメロから借りているゾンビ作品において、一番重要なものは設定ではない。その中身だ。

 

余談だが、あの『サンゲリア』も、『ゾンビ』をプロデュースしたダリオ・アルジェントからパクリだと抗議された事がある。以下は『ゾンビ映画大辞典』からの引用。

アルジェントに言わせれば、『サンゲリア』は『ゾンビ』のパクリらしい。ちなみに『サンゲリア』のイタリア原題は『ゾンビ2』。確かに似たタイトルだがそんな言いがかりに屈するフルチ大先生ではない。
彼は堂々と「ゾンビはキミの専売特許ではなく、昔からハイチとキューバのものだ!」と開き直った。するとアルジェントも強くは言えず、先輩の顔を立てて泣き寝入りしたのである。こうしてフルチのオリジナリティは、アルジェントにも認められたわけである。

ゾンビ映画大事典 (映画秘宝COLLECTION)

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 『ゾンビ2』はちょっとどうかと思うが、今『サンゲリア』を『ゾンビ』のパクリだと言う人はほとんどいないだろう。*1

 

方向性の違い

上で挙げたリンクの後半で、林遣都はドラマの意気込みについてこう語っている。

劇中では、自分がゾンビ化してしまうんじゃないかという不安を抱え、悩み苦しむ人達を放っておけない晋助の根っこにある優しさをうまく表現したいです

これを見る限り、話の路線はどう考えても『ゾンビ取りガール』とは異なる。
福満漫画には「冴えないけれど実は心優しい主人公」なんてあまっちょろいモノは存在しない。
『ゾンビ取りガール』では、たとえ世界にゾンビが蔓延っていようが死にかけようが主人公の心理描写の重点は「非モテ」的な部分に置かれており、悩み苦しむのは主人公であって他人ではない。
ゾンビ化への不安などよりも、軽そうなヤンキー女と清純派美人の間で(自分の中だけで)揺れ動く心理の方がよほど大きく描かれている。
また単に主人公がゾンビに対して鈍感という事ではなく、社会全体がゾンビがいる光景を当たり前のものとして受け入れているのがこの漫画の世界観だ。
ここに展開されるのは「ゾンビがいる」という特殊な世界での心理を描く、ロメロ的人間ドラマではない。「ゾンビがいる」という世界でのごく日常的な心理を描く、福満的小規模ドラマである。
見てみない事には分からないが、ドラマはおそらく前者のロメロ的人間ドラマを緩い形で描きたいのではないかと思う。
そこで繰り広げられるストーリーは、おそらく「ゾンビ取りガール」とは別物だろう。*2


結論

蓋を開けてみれば設定は似ていても全くの別物という可能性は充分ある。これまでだってゾンビものはネタ被り上等、パクリだかオマージュだか満載でやってきた。

ゾンビは設定より中身で勝負だ。

そうは言っても限度というものはある。
いくらストーリーが違っていても、主人公がゾンビ捕獲のギミックをやたらと作っていたり、投げ縄が得意なバーコードのおっさんが出て来れば流石にちょっと抗議したくなる。
まぁとにかく、見てみない事には分からないという事だ。私の住んでる地方では放送されませんけどね。

 

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『アイアム~』……なんでしたっけ?ちょっとタイトルが思い出せませんが、そのヒーローがどーの……

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*1:ちなみに引用した部分だけを見るとフルチを皮肉っているようにも見えるかもしれないが、この後熱くフルチについて語っている

*2:ドラマの方も「ゾンビの存在が日常化した世界を舞台に繰り広げられる」そうだが、ゾンビ化の不安、悩み苦しむ人達を描くという点で心理描写さえもが日常的である福満漫画とは異なるものになると思う。多分