うちの犬は世界一可愛い

母はうちの犬の事を「上戸彩に似ている」と言った。

私は上戸彩よりうちの犬の方が可愛いと思っている。

 柴系の雑種で、くりっとしたツリ目に白い睫毛がアクセントを与えている。ふさふさの尻尾を丸めてその中に埋まり、静かに寝息をたてている姿などはもうお前がNO1だとしか言いようがない。

間違いない、世界一可愛い。

「写真はよ」「動画うp」という声が世界中から聞こえてくるが、残念ながらそれは出来ない。家族にブログの存在がバレてしまう、というのももちろんあるが、それ以外に一つ理由がある。
写真や動画に撮ると可愛く映らないのだ。腕の問題か?カメラが悪いのか?犬がカメラ慣れしていないからか?
それともあれか。「40代女同士の仲良しグループ、自分の周囲はなんて若々しくて素敵な人たちばかりなんだろうと思っていたけれど、撮った写真を現像したらどうみてもただのおばちゃんだった」っていうアレか。JAFメイトかなんかの投書で読んでいたたまれない気分になったアレか。

あれ?もしかしてうちの犬、世間的に見てそんなに可愛くない?そういえば子犬時代を過ぎて以降散歩中「かわいい」とか言われなくなったんだが、これ遠慮してるとかじゃない?
かわいく、ない…?

思えばうちの犬も17歳、かなりの高齢である。おばあちゃん犬だ。いつまでも若々しくてかわいいなぁと思っていたが、他から見るとただの老犬なのだろうか?もしかして「うちの犬は超かわいい」という先入観に基づきうちの犬の超かわいい部分の情報だけを見るというこれはあれか、確証バイアスってやつか。

 

……いや、別にそれでもいいんだどうでもいいんだとにかくうちの犬超かわいいんだ。JAFかなんかに投書してきた女性にいいたい。たとえ端から見てただのおばちゃんグループでも、あなたから見て楽しくて素敵な女性グループならばそれでいいんだ。

赤の他人がいたたまれないだのなんだの言ったって、そんなのあなたの人生にはどうだっていい事だ。

昔読んだ「サユリ一号」という漫画にこんなシーンがある。
スキーサークルかなんかに所属し、そこのメンバーに対し「大切な仲間なんだよ!」的な事を言う女の子に対して、サークラヒロインがなんかこんなような事を言う。
「となりのUFO研究会に所属してたとしても、どうせ同じ事言ってるよ?」
スキーサークルの仲間に囲まれて笑う女の子の写真が、モサいUFO研かなんかの仲間に囲まれて笑う写真に置き換わる。その笑顔はそのままで、この絵面のインパクトはデカい。
だが女の子は言う。「それの何が悪いのよ!!」と。
うろ覚えで色々間違っている気がするが、自分の中では印象に残っているシーンだ。

結局人は自分の主観の中でしか生きられない。自分にとって大切な人でも結局それは限られた選択の結果選んだ人であり、何かが少し違っていれば別の人を大切だと言っていたのかもしれない。
ウチの犬は、小学生の頃通学路の途中でもらってきた犬だ。何匹もいる子犬の中から選んだ一匹で、他の犬を選んでいた可能性もある。それはそれで、世界一可愛い!と言っていたかもしれない。
だが私が選んだのはこの犬なのだ。ランドセルにプリントを詰め込んだ私、ロッカーで腐らせたパンを持ってきた中学生の私、いらないプリントをその場でゴミ箱に捨てる事を覚えた高校生の私、部屋に虫が湧いてようやく整理整頓に目覚める大学生の私。  
それぞれの私の傍にいたのはこの犬で、25にしてフリーターの私の傍にいる、世界一可愛い犬はこの犬である。

母が買った一眼レフのカメラで撮っても、やっぱり可愛く映らない。それでも、私の目に映るあの老犬は世界一可愛い。