「なんだろう…これが普通の日本の男性なんだ」―今週の探偵ナイトスクープが面白かったごく個人的な理由

6月27日、この放送で登場していたのは「食べるのが遅すぎる男」。

食べるのが非常に遅く、友人と回転ずしに行っても30分で5皿しか食べられないという。これから社会人になるにおいて困るので、これをどうにかしたいという依頼だ。

 

一日の食生活を円グラフで表していたのだが、これがすさまじい。
まずは朝食は7時半から9時の間。コーンフレークとパンという簡単なものに関わらず、1時間半もの時間をかけて食べている。
次にお昼はというと、15時半~17時半の間、2時間。夕食にいたってはなんと3時間、21時~24時に渡って食べ続けている。
澤部探偵に「満漢全席とか食ってんの?」と突っ込まれていたが、内容はからあげにめかぶスープ等、至って普通の食事だ。
一日の総食事時間は6時間半、円グラフ内の起きている時間のうち、三分の一を食事に費やしている。

こう書くとテレビに出たいが為に嘘をついているのでは?と思われそうだが、どうも依頼人はそういった雰囲気ではない。
見ていた人は分かると思うのだが、非常におっとりした雰囲気の真面目そうな青年で、なんというかガチなオーラが出ている。
番組ではその後医師(谷先生)が登場し、レモンを噛んで唾液を増やす、といった強引な方法も使いつつ(自然にできるまでの強制ギプスのようなものなのだろう)食べ方を指南していく。

笑い所もなければ泣き所もない、派手な見せ場もないなんとも地味ーな話であったが、私としてはこの手の依頼が好きだったりする。
個人的にナイトスクープの最も面白い部分のひとつは、こういう「理解の範疇外の人」が登場するところにあると思う。
理解の範疇外というと大げさだが、「世の中いろんな人がいるなぁ」と思えるのが良い。
過去の似たような依頼でいうと「缶ジュースがのめない」「うがいができない」などがあったが、どれも端から見ると滑稽で、わざとやってるのかとすら思える。
が、本人はそこそこ真剣に困っていたりする。

自分がごく当たり前に出来ることが他人にはそうではないかもしれない。
昔『妻を帽子と間違えた男』を読んで以来、特にこれを頭に留めて置こうと思ってはいるのだが、この手の決意はどうしたって忘れがちになる。
これを思い出させてくれる探偵ナイトスク―プという番組が私は好きだ。

最終的に依頼者は「30分で回転寿司10皿を完食する」という目標にチャレンジし、成功する。成功した依頼者の感想は「なんだろう…これが普通の日本の男性なんだ」だった。どことなく感慨深いコメントである。本当に、人は個々によって見える世界が違う。
自分にとってはごく当たり前に出来ることが出来ない、そんな相手に会った時どうするか。笑う、励ます、アドバイスする、スルーする、相手との関係や時と場合によって対応は変わってくるだろうが、出来ればイライラしたり、頭ごなしに否定したりはしたくないと思う。

ここまでえらそうに書いてしまったが、これはもちろん逆も然りで、他人には当たり前に出来て自分には出来ないことも多々ある。こういう考え方をするのは、自分が出来ないことを許してほしいという思いの裏返しなのかもしれない。
出来ることなら、「自分が出来ない事」を努力しながら、「自分が出来る事」を押し付けない人間になりたい。
いやまぁ、出来ることなら。とりあえず、そう思っておくだけ思っておこうと思う。

 

 

妻を帽子とまちがえた男 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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